最低賃金 大幅引き上げとなるか 審議大詰め 厚生労働省2019年7月30日 23時56分
今年度の最低賃金の引き上げについての議論が大詰めを迎えています。厚生労働省の審議会は話し合いが続いていて、政府が、より早期に平均で時給1000円に引き上げるという目標を掲げる中、大幅な引き上げが認められるかが焦点となっています。
最低賃金は、労使が参加する厚生労働省の審議会が毎年、引き上げ額の目安を示し、それをもとに都道府県ごとに決められています。
30日午後２時から始まった４回目の審議会は現在も取りまとめに向けた大詰めの議論が続いていて、早ければ31日未明にも引き上げ額の目安が示される見通しです。
政府は先月まとめた「骨太の方針」の中で、現在、全国平均で時給874円の最低賃金を、より早期に1000円に引き上げるとする目標を掲げています。
昨年度までは３年続けておよそ３％の大幅な引き上げが行われていて、仮に今年度も同程度の引き上げを実現した場合、全国平均は時給900円に、また東京都と神奈川県では初めて時給1000円を超える計算になります。
審議会では労働組合側が、すべての県で、800円を超えるよう大幅な引き上げを求めているのに対し、経営者側は中小企業の経営状況は厳しく根拠のない引き上げはすべきではないなどと慎重な姿勢を示していて、４年連続で３％程度の大幅な引き上げが認められるかが焦点となっています。
高まる期待の声
生活が苦しいと感じている非正規雇用で働く人からは、最低賃金の引き上げに期待する声が聞かれました。
福岡県那珂川市の30歳男性は週５日、市内の生協の魚売り場でパートとして働きながら、夜はガソリンスタンドでダブルワークをしています。
このうち、ガソリンスタンドの時給は、福岡県の最低賃金の814円ぎりぎりで、月収は15万円ほどだということです。
生活費を節約するため、両親や妹と同居していますが、車のローンや家賃などを支払うと、手元には月に２万円ほどしか残らないということです。
男性は「生活は苦しいので、最低賃金が引き上がるのはうれしい。今まで習い事とかしたことがなかったので趣味にもお金を使いたいと思うし、今後も引き上げていってほしい」と話していました。
これまでの経緯は…
最低賃金は、企業が従業員に支払わなければならない最低限の賃金で、毎年今の時期に、厚生労働省の審議会で引き上げ額の目安が示されたあと、都道府県ごとに労使による協議が行われ、最終的な額が決定します。
政府は３年前、「一億総活躍プラン」などで将来的に全国の平均で1000円に達するよう、毎年３％程度引き上げていくという目標を掲げ、平成28年度以降は３年連続で約３％の大幅な引き上げが続いてきました。
昨年度は、最低賃金が時給で示されるようになった平成14年度以降で、最も高い26円の引き上げが行われ、全国平均は874円となりました。
今年度の引き上げについては、日本商工会議所から高い数値目標を設定することに反対の声があがるなどしたため、政府は、先月まとめた「骨太の方針」で数値目標は見送り、全国平均をより早期に時給1000円に引き上げるという目標を掲げています。
年々拡大する地域間格差
最低賃金めぐっては、労働組合などから「地域間の格差が拡大している」という指摘も上がっています。
最低賃金が時給で示されるようになった平成14年度の時点で金額が最も高かったのは東京で708円、最も低かったのは沖縄で604円で、その差は104円でした。
しかし、現在は最も高い東京（985円）と、最も低い鹿児島（761円）の差は224円に拡大しています。
また、隣り合う自治体どうしで差が広がっているところもあります。
神奈川県と静岡県では、平成14年度に神奈川県が706円、静岡県が671円とその差は35円だったのに対し、昨年度は神奈川県が983円、静岡県が858円で、差は125円に広がっています。
労働組合からは「地域間の金額の格差が拡大していて、地方からの働き手の流出などが懸念される。是正が必要だ」などと指摘する声が上がっています。
例年議論は長時間に
最低賃金の引き上げは影響が大きいことから、審議会では、労使が１円単位で引き上げの是非を激しく議論します。
また、双方が納得する形での取りまとめを目指すため、例年、長時間に及ぶことを想定し、都内の会議室をひと晩借り切って行われるのが慣例となっています。
ことしも東京 中野区の会場に30日午後から経営者側と労働者側の代表が集まり、詰めの話し合いが行われています。議論は非公開で行われ、話し合いの詳細は明らかにされていません。
去年は、昼すぎに始まったものの、目安が決まったのは日付が変わる頃となったほか、平成26年には、翌日未明まで15時間にわたって議論してもまとまらず、いったん中断するなどした結果、議論を始めて34時間後の翌日の夜までかかりました。
ことしも、これまでの議論では、労使の意見の隔たりが大きく、目安が示されるのは、早くても30日深夜になるとみられます。
専門家「中小企業に対し支援が必要」
最低賃金の引き上げについて労働問題に詳しい日本総合研究所の山田久主席研究員は「人口が減り労働力不足になる中、賃金を底上げして消費を喚起したり、生産性を上げるために最低賃金を上げることは大変重要だ」と話しています。
一方で、ここ数年およそ３％の大幅な引き上げが続いていることを踏まえ「持続的に引き上げていくことは妥当だと思うが、あまり強引に引き上げると、特に中小企業ではかえって雇用を減らすことになりかねない」として、中小企業に対しきめ細かい支援が必要だと指摘しています。
また「過去10年間、大都市部を中心に最低賃金を上げてきた結果、地方との格差が拡大している」としたうえで、「あまりにも格差が大きすぎると地方から人が出て行くことが懸念される。地域間の格差を一定水準に抑えて、均等になるよう引き上げていくことが必要な局面に入っているのではないか」と指摘しています。
企業から懸念の声「経営に影響も」
企業の中には、これ以上大幅な引き上げが続くと経営に影響が出るのではないかと懸念する声もあります。
神奈川県小田原市に本社のある介護施設の運営会社ではおよそ200人のパート従業員のうち、利用者の送迎や事務に携わるおよそ20人が現在の最低賃金983円ぎりぎりの時給で働いています。
これまで最低賃金が引き上げられるたびに公平性の観点からすべての職員の賃金を引き上げてきましたが、待遇改善も含め人件費はこの１年で3000万円余り増えたということです。
今回、最低賃金が大幅に引き上げられて1000円を超えた場合、人件費はさらに膨らむ計算ですが、収入は介護報酬で決められているため、ほかの支出を削る以外に費用を捻出する方法はないということです。
介護施設の運営会社の田中勉代表取締役は「賃金を引き上げることには賛成だが、収入が限られている中で経営はぎりぎりになりつつある。経営者仲間からも企業努力をしても苦しく、会社をやめようかという声も聞こえてくる。国にはこうした引き上げがいつまで続くのかや、どうしてここまで上げるのか根拠を示してほしい」と話していました。
